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【Event Report】“スロー”を実感できる場所~社会課題解決型スタートアップから考えるサスティナブルシティとまちづくり 〜ごみ拾いSNS「ピリカ」の実践〜」

2023年10月16日、建築家の西田司さんとシティラボ東京がともに企画した連続対談「”スロー”を実感できる場所」の16回目として「社会課題解決型スタートアップから考えるサスティナブルシティとまちづくり 〜ごみ拾いSNS「ピリカ」の実践〜」を開催しました。オンライン・オフラインで約30名が参加しました。 今回は、これまでの対談で見えてきた”スロー”シティの輪郭をより豊かに描き出すことを目的として対談を進めていくために、ゲストとして株式会社ピリカ / 一般社団法人ピリカ代表の小嶌不二夫さんをお迎えしました。小嶌さんからの話題提供の後に参加者からの質問等を交えながらクロストークを行い、今後のまちづくりにおけるヒントを探りました。 <文:西昭太朗>  
目次
◆ピリカの取り組み ~小嶌さん話題提供~
◆活動を広げるために期待値を上げる
◆データを可視化してイノベーションに繋げる
◆”スロー”につながるキーワード
◆ピリカの取り組み ~小嶌さん話題提供~   はじめに、小嶌さんより、創業の経緯やピリカが取り組んでいる事業について紹介いただきました。 小嶌さんは、小学校の頃に学校の図書館で出会った本から、環境問題という大きな課題を解決したいと思うようになりました。その後、研究者を目指して大学院へ行きましたが、むしろ事業者として問題を解決したいという思いから、環境問題のどの課題に着目するかを決めるために世界を放浪しました。その経験の中で、あらゆる国や都市に課題として存在しながらも産業としてもあまり注目されていなかった「ごみの自然界流出」に着目しました。 現在の資本主義の中では、「作って売る」ところに企業活動が特化されていますが、「使い終わった後にどうするか」については、産業が遅れて立ち上がり、その時間のギャップ分、ごみの流出の問題が起こってしまいます。例えば、新興国ではそもそもごみの収集ルートが確立されていないこともありますし、先進国でも新しい製品が生み出された時にどうリサイクルするかが確立されないまま売られてその一部が回収されないまま流出してしまいます。その結果プラごみの例で言えば、日本でも東京湾の約8割のイワシにはプラスチックが含まれている現状があります。 ピリカは、2040年までに「自然界へ流出するごみの量と回収されるごみの量を逆転させる」ことを目的としています。一方で、「ごみの流出量、回収量を測ることができない」現状があり、その対策となるサービスの開発(SNSピリカ、タカノメなど)を行っています。
<SNSピリカ>
ごみ拾いは、「拾う事で証拠がなくなってしまう」アクションなので、色々な地域でごみを拾う人はいるものの、誰にも気づかれることがなく、活動が広がっていかないという問題があります。「SNSピリカ」はボランティアでごみを拾う人に向けたサービスで、ごみを拾って写真を撮り、発信することで、感謝されたり仲間が増えたりします。ごみ拾いという行為を可視化して、フィードバックすることで、ごみ拾いをする本人が感謝されることで活動が継続したり、真似をする人が出てきてごみ拾いに取り組む人が増えていく構造になっています。
この「SNSピリカ」は自治体では市民の清掃活動を扱う環境政策部門に導入されています。ごみ拾いの実施量や参加人数が明らかになるなど、データが可視化されることで予算に対する効果が検証できます。また、企業では社会貢献部門など会社の清掃活動などに導入されています。実際に使用することで、年間数千人もの人が清掃を行なっていたという事実が分かり、会社のPRやブランディングにもつながるといった事が起きています。
活動を可視化することで、このように個人、自治体、企業の各々に対して、その活動を促していく、拡げていく効果があります。
 
<タカノメ>
「SNSピリカ」を活用しても、実際にまちが綺麗になっているのかまでは分からない、また、ごみが拾われている一方で捨てられているという問題もあります。そこで、開発したのが、「タカノメ」です。「タカノメ」は、車などにスマホを取り付け、道路上のごみを読み取ることで、ごみの分布図を生成することができます。この分布図を活用することで、ごみ拾いが効果的な場所を可視化することができます。また、ごみ箱や喫煙所を設置する前後で調査を行うことで、施策の効果を可視化することができます。
創業までの経緯や取り組みを共有した後に、西田さんとクロストークを行いました。話題はわたりましたが、筆者が気になったトピックを2つご紹介します。
◆活動を広げるために期待値を上げる (西田)サービスが広がっていく時はどこに課題があり、どこでジャンプできたりするのでしょうか。
(小嶌)最初はサービスや活動を知ってもらうことが大事で、そのきっかけが掴めないと、飛躍ができません。「SNSピリカ」はリリースの時に、世界10カ国で使われている状況を作りました。世界で使われているサービスという期待値が上がることで、試してみようという気持ちになったり、周りを誘おうとする動きになります。全体的な期待値が上がっていかなければ、そもそも始められないこともあり、期待値を上げていくことが重要です。
もちろん、期待値を上げていくために、さまざまな準備を行うと同時に、期待値に応える実績をきちんと上げて信用してもらうことが大事です。「SNSピリカ」は現在121カ国で使われており、回収されたごみは3億個になりました。
◆データを可視化してイノベーションに繋げる
(西田)良いと分かってい始めたいが始められない、始めてみたとしても成果が上がらないから辞めてしまうというようなことがあります。どのようにモチベーションを継続し、どのように大きなイノベーションに繋げていくのでしょうか。
(小嶌)自治体などのごみ拾いに関連するお金の使われ方は、ごみ拾いイベント、ごみ箱の設置、歩きたばこに関するパトロール、市民向けの啓発イベントなどがあります。これらの成果が見えないことが多かったのですが、データを可視化することで、新しい取り組みを始めるきっかけになります。
モチベーションに関しては業務や日常のルーチンワークに組み込むことが一つの方法です。また、ごみ拾いに関していうと一部の人が頑張る傾向にあるので、その人たちをちゃんと盛り立ててローカルヒーローにしていくことが重要だと思っています。
「タカノメ」を活用して、都市ごとにごみの分布を可視化、比較することが出来るようになりました。良い意味で競争意識を生み出すこともイノベーションに繋がるのではないでしょうか。
最後にひとこと、お二方から全体的な感想をいただき、本日のイベントを締めくくりました。
(小嶌)普段のビジネスと違う角度からの質問も多く、用意した答えではなく、色々と考えて喋ることが多い時間でした。また、「ピリカ」や「タカノメ」が色々なまちづくりに使える可能性があることを感じられました。ぜひ、参加者の方を含めいろんなコラボレーションができたらなと思います。
(西田)「拾うとなくなる行為」をログとして残すことで、時間が経ってからも深掘りしたり共有したりすることによって、まちの記憶や愛着にもつながるのではないか。ごみ拾いという分野はブルーオーシャンであり、エンタメ、教育、育児などとも組んで新しいビジネスになる可能性も感じました。
◆“スロー”を実感できる場所につながるキーワード ピリカの活動紹介やクロストークをすることで、”スロー”を実感できる場所について以下のようなヒントを得ることができました。
①価値転換を⽣み出すためには期待値をできるだけ高めていく
②これまで見ることができなかったデータを可視化することで、はじめの一歩を踏み出すきっかけになる。また、劇的な変化が見えにくいものもでも長い時間の中で小さな活動の履歴を残していくことで、変化を確認することができる。
③地道な活動の中に楽しさを見出すことで、成果だけではないプロセスを楽しむことができる。